【小説】4月お題『好きな歌から』3

前記事の続きです。



虹のない日を君と【下】/月夜


 翌日、館川は瞳夜と母親に丁寧に説明した。基本的に瞳夜はなにかに挑戦するわけでもなく、VTRのみでの出演になるらしい。もしかしたら中継を繋ぐかもしれないようだが、気負う必要はないとのこと。

 メインでもある再現VTRは役者が演じてくれるらしい。けれど、再現VTRを作るために当人である瞳夜、母親、もも、本田など周囲の人の証言や瞳夜が大切に持っているアルバムや日記が必要らしい。

「貸すぐらいなら、大丈夫だけど……」

「もちろん瞳夜くんのプライベートなことには触れないようにする」

 ーーだから頼むっ……!

 館川は瞳夜に頭を下げた。瞳夜は慌てる。館川はテレビ局の偉い人だと日記に書いてあったのだ。そんな人に頭を下げられては困ってしまう。

「わっ、分かりました!引き受けます!」

 ーーなので頭を上げてください!

 館川はそっと顔を上げた。その顔には安堵が広がっていた。

「僕の身におきたことが企画になるのなら、喜んで協力します」

「もちろん!今年のテーマは明日を描くだからね」

「明日を描く?」

「そう。どんな明日を描きたいか。ずっと先じゃなく、すぐ近くの未来をどうしたいか。そこに焦点をあてるんだ」

 瞳夜はそっと安堵した。瞳夜にずっと先の未来は考えられない。だっていつ虹を見てリセットされるか分からないからだ。明日には記憶がリセットされるかもしれない。それが瞳夜の中では大きな恐怖となっていた。

「では早速色々な人にアポイントメントを取らせてもらいます。華乃さんは瞳夜くんと一緒、他には……」

「ももちゃんと良哉さんも必要ね。普段の学校生活とかだと……」

 母親と館川が盛り上がっているのを見ながら瞳夜は日記を見ていた。今までのことを少しでもインプットしないといけなかった。

 そんな中、見付けたのはももちゃんと付き合い始めた、という記述だった。そのときの瞳夜の頭はショート寸前だった。

 どうしてももなのか。瞳夜が好きになったのか、告白はどっちからなのか。

 まあ、それはさておき。

 だからももの距離が近かったのか。

 瞳夜は昨日のことを思い出す。瞳夜の知っているももとの距離はもう少し遠かったような気がしたが、これが原因のようだ。付き合っているならばあの距離感も納得だ。だがーー。

「僕は今、好きなのかな……?」

 瞳夜の記憶は小学生で止まっている。リセットされる前の瞳夜はももが好きで付き合ったかもしれないけれど、今の瞳夜は違う。ももへの気持ちは友愛が強い。

 瞳夜がもう一度ももを好きになれれば。そうなれば問題はない。けれど、瞳夜はもう一度恋に落ちることができるのか分からなかった。もしも、恋に落ちることができないならば、ももと付き合うことは罪悪感しかわかない。

「お母さん、僕、ももちゃんに電話してくる」

「えぇ。そうだ、空いている日を聞いておいてくれる?」

「うん、分かった」

 リビングを出て部屋に戻る。落ち着くように深呼吸をした。

 スマートフォンを握り、椅子に座った。机の上は整頓されている。引き出しを開けてスケジュール帳を出すとそれをひらく。

 もものアドレスを表示すると電話のマークを押した。プルルルル、と電話の音がする。じっと待っていれば、もしもし、と声が聞こえた。

「ももちゃん?僕。瞳夜だけど」

「うん、瞳夜くん。どうしたの?」

「あのさ、暇な日ってある?」

「暇な日?……ちょっと待ってね」

 カレンダーでも見ているのかしばらく沈黙がおりる。けれど瞳夜は静かに待っていた。沈黙を避けなきゃいけない、とは思わなかった。

「うん、瞳夜くん大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「それで、暇な日だけど、来週の土曜日かな?あとはその次の週の水曜日と金曜日の午後」

「そっか、テストか」

「うん、そう」

 瞳夜はスケジュール帳を見ながらテストが近いことを悟る。瞳夜は学校側からの特別な措置で様々なものを持ち込んで別室でテストを受けることになっていた。国語に関しては漢字辞典、英語に関しては英和辞典、理系科目は教科書の持ち込みが認められていた。

 そして、テストの問題も比較的簡単なものになっている。瞳夜の記憶がリセットされてからどれくらい経っているかで問題の難易度を変えているのだ。瞳夜の都合に合わせて問題を変えてくれる先生方には頭が上がらない。

「でもどうしたの?暇な日を聞くなんて」

「あのさ、二十四時間テレビってあるじゃん?その企画の一つとして僕におこった出来事をやるみたいで……」

「そうなの?」

「お、オフレコだからね。ナイショにしてよ?」

「うん、分かった!でも、そっか……。それで取材が必要なんだね」

「そう……、よく分かるね?」

「ほら、小学生のときに映像授業をやったじゃない?」

 言われて瞳夜は思い出す。たしかにやった。それぞれグループに分かれて先生や行事などを取材して映像にまとめてクラスだけのニュース番組を作ったのだ。瞳夜は台本を作る担当だった気がする。ニュース番組の収録時には体調を崩して先生に付き添ってもらっていて、それほど関われなかった。

「取材の日程が決まったら教えてね」

「うん」

「あ、そうだ!明日、体育あるけど体操着いれた?」

「まだだ……、いれなくちゃ」

「ふふっ、うん。いれて、忘れる前に」

 コロコロと鈴をならすようにかわいらしい笑い声が聞こえる。ももの笑顔を思い浮かべて思わず頬が上がった。

「ねぇ、ももちゃん。あのさ、僕たち付き合っていたの?」

 途端、笑い声が消えた。

「……そうだよ」

 ももはゆっくりとそう言った。

「僕、その記憶もない。だから、ももちゃんのことは友だちだと思ってる」

「……うん」

「好きに、なれるかな?」

「……今すぐ別れようってわけじゃないの?」

「え……?う、うん、そうだけど」

「良かったぁ……」

 ももがホッと息をついた。瞳夜は不思議だな、と思いながらももの言葉を待った。

「今は好きじゃないから別れようって言われるのかと思ったよ」

「あぁ……、そっか」

 そういう選択肢もあったのか。でも、瞳夜はそれをはなから無視していた。つまり、ももに対する好感度はそれなりにあるらしい。

「それならお試し期間にしよう」

「お試し期間?」

「そう。付き合えるかどうか、今度は瞳夜くんが判断するの」

「うん……、分かった」

「罪悪感を持つことはないからね。必要でしょ、今の瞳夜くんには」

「……うん」

「それに、」

 ーー惚れさせる自信はあるからね。

 瞳夜は思わず言葉に詰まった。正面きってそんなことを言われるとは思わなかったのだ。

「それじゃあ、また明日」

「う、うんーー」

 通話を終えてからも瞳夜の胸はドキドキしていた。まさかあんなことを言われるなんて。瞳夜はただどうしたら良いかの助言を求めただけなのに。

 瞳夜はそっと胸をおさえる。これが恋になるかは瞳夜にも分からなかった。


 それから取材は順調に行われた。瞳夜のところには五回ほど来た。瞳夜の日記はコピーして提供することになり、瞳夜の手元から貸されることはなかった。

 もものところにも、セイとリミのところにも、取材は及んだらしい。現在の瞳夜についての話を聞かれたとセイとリミは教えてくれた。

 また、本田も快く取材を受けてくれたらしく、館川と同年代ということもあり、仲良くなったらしい。お酒を飲み交わす仲になったとのこと。

 そして夏休みに入った頃、館川から再現VTRができたから見てほしい、と言われた。虹は出ないから安心してほしいと言われ、瞳夜は胸をなでおろした。

 瞳夜はももとセイとリミを誘い、母親の車に乗ってテレビ局に向かった。本田は仕事があって瞳夜たちと一緒に見ることはできない。別の日に見るとのことだった。

 テレビ局の駐車場に車を止め、迎えに来てくれた館川と共にエレベーターに乗った。もものことを配慮してくれたのだろう。VTRを見る部屋もエレベーターの近くだった。

「飲み物もそこにあるので好きに飲んでね」

「わ!お菓子もある!」

「食べて良いんですか?」

「もちろん。率直な感想を聞かせてね」

「はーい」

「じゃあ、流すね」

 テレビを囲むようにして座る。VTRが流れ出すとざわざわしていたのがうってかわって真剣な顔でテレビを見た。

 再現VTRはよくできていた。瞳夜とももの身に降りかかった事故、リセットされる記憶、関わらないように避け始めた周囲と瞳夜自身……。瞳夜の日記やもも、母親の証言をもとに作られたそのシーンの全てを瞳夜は知らない。けれど、胸が痛くなった。

 進学した瞳夜を待っていたのはリセット地獄だった。一学期の間はリセットされ続け、一種のいじめのようだった。けれど次第にクラスメートは関わらないようになり、イツメンと言われるメンバーで一緒にいることが増えた。

 そこからはセイとリミの証言も加わる。瞳夜の記憶にないそのシーンから、彼らにたくさん助けられていたことを知った。後でちゃんとお礼を言おうと思う。

 瞳夜のこれまでが詰められたVTRはあっという間に終わった。ぎゅっと着ていたシャツの裾を掴んだ瞳夜の手にももの手が重なる。冷房の風にあたりすぎたのか、ももの手は冷えていた。けれどそれが心地良い。

「どうだった?」

「……すごく、良かったです」

 ーー僕の記憶にはなくても、きっとこうだったんだろうなって。

 エメラルドの目が伏せられる。どこか憂いを帯びた表情に館川は息を飲む。ここまで綺麗な子どもには出会ったことがなかった。こちらが触れたら壊してしまうような、そんな繊細さを兼ね備えていた。

「瞳夜くん、お手洗いついてきてくれない?」

「……分かった」

 ももが瞳夜の手を離す。そっと瞳夜が立ち上がってももの補助に入る。二人が部屋を出れば、残されたメンバーは顔を見合わせてそれぞれ意見を出した。それは瞳夜に聞かせるわけにはいかない意見だった。

 ーー日記にあったいじめが本当にあったのか。

 これに関しては館川たち取材班が中学校の先生に確認をとった。生徒にも話を聞きたかったがそこは止められたので、どういういじめがあって、どんな様子だったかを描写するだけに留めることにした。

「高校生になった頃のいじめはセイくんやリミちゃんによって裏付けられたけれど……」

「あのときは本当にひどかったんだ」

「毎日、虹を見せられて倒れ続けてて……」

「負担が大きすぎて三日休むことになったし」

 その頃には、セイもリミも瞳夜たちとイツメンになっていた。二人もクラスにうまく馴染めずに浮いていた。だからこそ、ちょうど良かったのだ。

 今は瞳夜ともものためにもイツメン以外の人ともうまく関わるようにしている。そうすることで二人に危害を加えようとする人を早めに発見できるからだった。

「今回は瞳夜くんにスポットを当てたけれど」

 ーーももちゃんでも作れそうだってディレクターが……。

「それは嫌がると思う」

「そうだな。ももちゃんは悲劇のヒロインにはなりたくなさそうだったし」

 それは努力して杖を使って歩けるようになった点だけでもそう推察できる。守られるだけではいたくないのだろう。

 そこへ二人が戻ってきた。ももが座るまで瞳夜は立っていたが、ももが座ったらゆっくりと自身も座った。

「それで、当日のことなんだけど」

「はい」

「中継じゃなくて会場に来てもらうことになってね」

「あ……、なるほど」

 瞳夜は少し悲しそうな顔をした。天気のことを心配しているのだろう。

「一週間前から様々な企画があるので、それにも出てほしくて……。もちろん、瞳夜くんの負担にならない程度に番組は厳選する」

「……分かりました。番組が決まったら連絡をください」

「もちろん。一週間前から、とは言ったけれど実質三日ぐらい前からで大丈夫だから」

「はい」

「ももちゃんたちは家にいて大丈夫。華乃さんは付き添いで来てもらって良いですか?」

「ええ」

 瞳夜は沈黙していた。難しい話に変わってしまったからだった。

「なにか気になることがあればいつでも連絡してくださいね」

「はい」

「今日はありがとうございました」

「本番、楽しみにしています」

 エレベーターホールで館川は瞳夜たちを見送った。この後もやることがあるらしい。瞳夜は次に会う日を確認してスケジュール帳に記すと、エレベーターに乗った。全員乗れば、エレベーターは彼らを駐車場まで届けた。

 そこからは来たときと同様に車に揺られて帰った。セイとリミは高校の近くで、ももは彼女の家の前でおりた。

 瞳夜は家に帰るとアルバムを見返した。写真の中の今よりも幼い瞳夜は笑みを浮かべている。その笑みが陰っていることはなかった。だから気付かなかった。

 瞳夜は今度は日記を見返した。瞳夜は日記をあまり読まなかった。一行しかない内容ばかりのときは決まって文字を目で追うフリだけしていた。内容なんか二の次で、ときにページを飛ばしたこともあった。

 しかし今回は違った。ちゃんとページをめくって読んだ。そして瞳夜がいつも飛ばすページの範囲内に見付けたのだ、いじめの実態を。

 それは映像で見たものよりも酷いものだった。たぶん、館川たちがいじめの内容を優しくしたのだろう。だってそれは残酷なものだったから。

 そして気付いたことがあった。進学してすぐの瞳夜はそれを知らなかった。過去にいじめられていたことも知らず、しかし同じ手法で未来の瞳夜に隠していた。その手が通用する理由は記憶をリセットされて一番はじめに知りたいことがその前まででこと足りるからだ。

「……そっかぁ」

 ーー嫌われていたのかな。

 思えば中学校の同級生と連絡を取っていなかった。その理由がいじめにあるのなら。どうして気付かなかったんだろう。

「瞳夜?買い物に行ってくるけれど」

「うん、分かった。行ってらっしゃい」

 わざと明るい声音でそう言った。母親には心配させたくなかった。母親は少し躊躇いつつも家に瞳夜を残して外出した。

 アルバムと日記をかき抱いて瞳夜は目を閉じた。ソファーの方が寝心地は良いだろうが気にしなかった。

 ーーいっそのこと。

「全て忘れてしまえたら」

 ふっとまぶたが重くなる。瞳夜は静かにそれに従った。


 ふわふわとどこかを漂うような感覚。身体は火の玉みたいに手も足もない状況に追いやられたようで、目は開けてもいないはずなのに周囲の景色を鮮明に伝える。感覚が鋭敏になったみたいだ。

 ここはどこかの和室だろうか。畳の敷かれた部屋はい草の香りで満たされ、ピンとした印象の白い障子やぼんやりとした山の描かれた襖がぐるりと囲んでいる。ここまで素晴らしい和室は見たことがなかった。

 ふと小さな声が聞こえる。すすり泣く声だ。梅干しのようにしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして女性が男性にしがみついている。

 その隣には涙をためた若い女性がいた。お父さんも被害者なのにどうしてっ、と甲高い声が響いた。

 仕方ないさ、と白髪の多い男性は言って力なく笑った。目尻に寄ったシワが優しい印象を与える男性だった。

 ーーわたしは緊急手術を受けて治ったけれど巻き込まれた中学生二人は怪我をした。それに対する損害賠償は払わなくてはならないからな。

 男性はそう言って両手を握ったり開いたりした。問題なく動いている。

 若い女性はまだ納得がいっていないようだった。

 ーーひとりは足が不自由に、もう一人はまだ目覚めない。その責任はとらないといけない。

 男性の覚悟はかたかった。たぶん、何を言ってもこの決定を覆すことはないだろう。

 若い女性は渋々うなずいた。それでもきっと、納得はいっていない。でもこれ以上争う気はないようだ。

 ふわりふわりと景色がかすみがかって見えなくなっていく。若い女性がいなくなれば良いのに、と呟いた声がやけに大きく聞こえた。


 目覚めた瞳夜は見慣れぬ天井に目を丸くした。そして身体を勢いよく起こした。しかしすぐに思い直す。

 今は二十四時間テレビのために近くのホテルに来ているのだった。だからこの天井に見覚えがなくて正解なのだ。むしろ見慣れたら怖い。そうなるほどまでここにいないといけないのだから。

 普段の自室とは比べるまでもないほど綺麗で整頓された部屋だが、目覚めるたびに慌ててしまうから瞳夜は早く家に帰りたかった。もし今、記憶をリセットされれば、瞳夜はこの状況を誘拐だととらえるだろう。誘拐にしてはかなり良い御身分だが。

 そんなことを考えながらベッドからおりて着替える。外は少し曇っていた。テレビでは特番が組まれていた。

 今日が本番だった。本番で失敗しないように何回も受け答えの練習はしたが、生放送という中でどうなるかは分からなかった。生放送の経験は当然だがない。

「おはよう」

 母親は瞳夜の顔を見て小さく笑った。瞳夜が不思議がっていると今から緊張してどうするの、なんて軽口が飛んできた。瞳夜は自分の頬を両手で揉みほぐした。少しかたい気がするが寝起きだからだろう。

「緊張してた?」

「うん」

 まだ母親は笑っている。瞳夜はむぐっと自身の唇を噛んだ。拗ね始めたな、と母親は思い、それ以上は言わなかった。

「大丈夫。だって館川さんもいるし」

「そうだけど」

 ーーそれでも、怖くて。

 そう言えば母親は瞳夜の頭を撫でた。茶色の髪は撫でられておとなしくおさまった。ふんわりと母親の香りがした。香水かなにかだろうか、すごく、安心できる匂い。

「大丈夫。瞳夜はうまくできるわ」

 瞳夜は目を閉じる。大丈夫。それは母親の使う魔法だった。いつだってそれは瞳夜を優しく包んで安心させた。

「さ、朝食を食べましょ。バイキングなんて久しぶりね」

「お母さん、それ毎日言っているよ」

「あら?そうかしら?」

 無邪気な子どものように笑いながら母親は言った。瞳夜がこうなってからは旅行も控えていた。だから今は久しぶりのホテル滞在なのだ。

 瞳夜はそうだよ、と言ってゆっくりと息を吐いた。それは呆れだったか、それとも別の感情を乗せていたか。そんなことは瞳夜ですら分からない。

 母親がルームキーを持って扉に向かう。瞳夜もルームキーを持ってそれを追いかけた。バタンッと扉が閉まった。


 舞台裏で瞳夜はぎゅっと手を握っていた。怖い。たくさんのスポットライトがたかれたステージは眩しくて、自分が今からそこに立つとは信じられなかった。笑い声でさえも肩を跳ねさせ、何度も深呼吸を繰り返し、手のひらに人と書いては飲み込み、書いては飲み込み……。

「大丈夫だよ」

 館川は瞳夜の肩を叩いた。瞳夜は肩を跳ねさせたが、それが恐怖からではないことを館川は分かっていた。不安なだけだ。

 そういう館川も生放送は久しぶりで柄にもなく緊張していた。けれど、瞳夜をこれ以上不安にさせたくなくてひた隠していた。

「そろそろ出番です」

「ああ」

 若い女性ディレクターが二人を呼びに来た。館川は瞳夜の頭を撫でた。瞳夜が顔を上げた。しかし、館川はもう、前を向いていた。

 再現VTR中にこっそり登場してステージに放送が切り替わったら司会者たちとトークすることになっていた。決まった立ち位置に立つと瞳夜は大きく深呼吸した。

 VTRを司会者たちと一緒に見る。一度見たとはいえ、瞳夜は緊張でほとんど内容が入ってこなかった。

 やがてVTRが終わる。スタッフがカメラ切り替えまで、とカウントを始めた。瞳夜はそっと服の裾を掴んで、パッと離した。

 ふんわりと笑みを浮かべて呼ばれるのを待つ。司会者たちが瞳夜と館川の名前を呼んだ。

「ご紹介いただいた館川です」

「同じく小玉瞳夜です」

「早速だけどさっきのVTRは実際にあったことを再現したものであっていますか?」

「はい。私たちが瞳夜くんの日記や周囲の人の証言をもとに作りました」

「瞳夜くんの記憶にはないんですね?」

「はい。僕はあれからかなりたくさんリセットされてきたので、何も覚えていないんです」

 目を伏せて悲しそうに言う瞳夜は顔立ちもあって儚げな美人だ。司会者の一人が思わず息を飲んだ。

「たくさんの人に支えられて、僕はなんとか生活できています」

「そうなんですね……」

「瞳夜くんは今、高校二年生ですよね。進路は考えていますか?」

「……僕、就職しようと思っています。できるだけ家の近くにしたくて。進学したとしても、迷惑かけちゃうだけなので」

「ずいぶんしっかりしてますねぇ」

「瞳夜くんはそうならざるを得なかったからですね」

「館川さんは再現VTR、どう見ました?」

「いやあ。あそこまで再現する必要はなかったかな、と。なんかだいぶ格好良くなっていたので、実物がこんなんで恥ずかしいなぁ」

 館川はけらけらと笑った。会場が少し和やかなムードになった。

「まあ、館川さんが会社の社訓をしっかり守ろうとしたおかげですね」

「そういう点では尊敬できる先輩です」

「おい、大先輩だぞっ」

「ふはっ……!まあ、こんな感じで頼れる気さくな大先輩です」

 館川は司会者たちと軽快なトークをする。館川の経歴はだいぶ変わったものだったが、ここでは説明を割愛する。

「じゃあ、これも聞いてみましょう。瞳夜くんと館川さんはどんな明日を描きたいですか?」

「そうだなあ……。誰もが見られるテレビを守りたいですね。瞳夜くんのような子だったり、テレビの電波が届きにくいところにいる人だったり……。テレビという娯楽がない場所をなくしたいですね」

「それは大きな未来ですね。もっと身近なもので!」

「……じゃあ、キラキラした明るい明日かな」

 司会者の目線が瞳夜に向いた。

「僕は、二人だけの虹を描きたいです」

 ピクリと周囲の人が動きを止めた。けれど、瞳夜は今、伝えないといけないと思った。きっと、ずっと未来の瞳夜は何をしても覚えていないのだから。せめて、記録として残しておきたかった。

「僕は虹が見れません。でも、ある人と二人だけの虹を紡ぎたいんです。その虹は、空にかかる七色の虹じゃない。色が被っていても良い。アーチ状じゃなくても良い。それは虹じゃないよって言われたって……。それが僕たちの虹だから」

 目を細めた瞳夜は愛しいと全身で伝えていた。そこにいたのはかわいそうな子どもじゃない。テレビという公共のものを利用してやろうと考えるずるい大人だった。

「それってもしかして……!」

「え、あ、はい。いちお、プロポーズです」

 瞳夜のその言葉にわっと会場がざわめいた。

「え、お相手はお相手は?」

「付き合っていたんですか?」

「相手はどんな子ですか?」

 瞳夜は人差し指を自身の唇にあてて片目を閉じた。長い前髪が頬にかかって瞳夜の輪郭を隠した。

「プライベートなことなので……」

 くすりと笑った瞳夜は本当に格好良かった。本当に素人のそれも記憶に障害ありの子どもなのか分からなくなった。

「それでは、二人ともありがとうございました!」

 わーっと拍手されてステージをおりた。ふと見れば若い女性が警備員におさえられていた。なにかしたのだろうか。パチッと瞳夜と目があったような気がしたが、女性は特に何も言わなかった。

 舞台裏にいた母親が瞳夜を見るなり抱きしめて頑張ったね、と言ってくれた。母親は瞳夜の計画を知っていたのだ。

「僕のスマートフォンは?」

「ここよ」

 母親が取り出した瞳夜のスマートフォンにはメッセージが届いていた。電話したいから大丈夫になったら連絡して、と。それだけだった。瞳夜はそれを見て電話をかけた。

 控え室に足を向けながらコール音を聞いた。短いはずのそれが長く感じた。

「もしもし?」

「もしもし、瞳夜くん?今、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 控え室に入りカチャリと鍵をかける。邪魔されないようにするためだった。

「瞳夜くん、あれって……」

「うん、プロポーズ」

 ももの声には涙が滲んでいた。やっぱり伝わったみたいだ。瞳夜は緩く口角を上げる。これで忘れても何度でも記憶に刻めるだろう。こんな堂々とプロポーズをしたなんて、なかなかないだろう。

「まだまだ、ももちゃんを養うことはできない。でも、僕にはももちゃんが必要だから。……僕と、結婚してくれませんか?」


 六年後。

 とある女性が子どもを産んだ。その子どもは双子だった。ひとりは美しい茶色の髪とエメラルドのような目をした女の子、もうひとりは茶色の髪と琥珀のような目の男の子だった。どちらもとてもかわいかった。

 パートナーの男性は赤ん坊を抱っこすると泣きながら笑った。宝物をありがとう、と静かに口にした。男性は泣いていて、声が震えていたが女性は指摘しなかった。女性は優しく赤ん坊の頭へ手を伸ばして笑んだ。

 その四年後、男性は亡くなった。享年二十七歳。ずいぶん早い幕引きだった。

 お葬式には高校時代の友人二人や主治医、関わりのあったテレビ局の知り合いや男性の職場の人が集まった。

 しょっちゅう男性に抱っこをせがんでいた双子も大人しく座って面白くもない読経を黙って聞いていた。喪服をまとった男性の母親と妻は涙をこらえて見守っていた。

 やがて、お葬式も終わった。テレビ局にいる知り合いは妻に一枚のDVDを差し出した。妻が問えば、それは生前、撮っておいたものだと返された。

 妻はそれから忙しくてそのDVDを見れなかった。けれど、その一年後に女性は見ることができた。

 そこには生前の彼がうつっていて、自分が死んでも暮らせるように手はうってあるから安心してほしいということと、お盆には帰りたいから迎え火をたいてほしいことを言っていた。

 そしてそれとは別に双子に向けてのメッセージがあった。双子はそれについていくら聞いても教えてくれなかった。


 じーわじーわとセミが鳴く。セミの声を聞けば尚のこと暑く感じた。外は見事な晴れ。先日までかかり続けていた虹は姿を消していた。

 一年のうち、一週間だけ。この期間だけは虹とは無縁の生活ができた。

「あと一週間で二十四時間テレビが始まりますね」

「そうですね!今年はなんと二十四時間テレビの開始から五十年という節目の年!これまでをプレイバックするだけでなく、過去の出演者たちの今も追調査しちゃいます!」

「五十年前の人たちは場合によってはおじいちゃんになっていますねぇ」

「時間の流れは早いものです」

「追調査にはその企画を担当したスタッフが行きます!懐かしいメンバーでの再会もみものですね!」

 テレビでそんなことをアナウンサーたちが喋っている。エメラルドの目をした女の子ーー真矢ーーがママぁ、とキッチンにいる女性に向けて呼びかける。

「この前、家に来たおじいちゃんがいる!」

「本当だねぇ」

「ままぁ、ぱぱにおやつあげないとね」

「そうね、智。パパも喜ぶわ」

 ひょこっと顔を出した琥珀の目の少年の手には小さなドーナツがあった。ちょっと不格好なのは二人の子どもと女性が作ったからである。

「えへへ!じゃあぼく、あげてくる!」

「走らないでね」

 分かってるぅ~、と智が言いながら早歩きをしていた。女性は笑う。走っていないから怒ることはしないであげよう。

「真矢、ママの椅子を引いてくれる?」

「うんっ!任せて!」

 女性が歩くたびにコツコツと杖と床がぶつかる音がする。女性は豊かな茶色の髪を揺らしながらそこに向かい、真矢が引いてくれた椅子に座った。

「ねぇ、ママ?パパ、テレビを使ってプロポーズしたんでしょ?映像ないの?」

「今度の二十四時間テレビで放送されるわよ」

「ホント?!えへへっ、楽しみだなぁ!」

 真矢が跳ねる。女性はくすくすと笑う。肩を揺らして笑う顔は驚くほど変わっていない。

「ねぇ、真矢」

「なぁに?」

「パパみたいに一途な人と結婚してね」

「……ママは、さいこんしないの?」

 女性の左手の薬指にはキラリと輝く指輪がはまっている。夫と死別しても外すことはなかった。

「ふふふっ、私は再婚しないわよ。パパ以外の人は考えられないの」

 ーーほら、見て。かわいくて格好良いでしょう。

 机の上に広げられていたアルバムをめくる。たくさんの写真には決まってこの夫婦が写っていた。

 女性の足のことを考えて船での旅行にも行った。その船で全て完結するようになっていたため、二人で楽しんだ。列車の旅よりはハードルが低かった。

 列車の旅も行ったが、窮屈で手間だったため、二人は好んで船の旅をした。

 そこに足音が増える。ペタペタとしたものは智だが、その他にパタパタというスリッパを履いた足音が聞こえる。来客かな、と女性は時計を見る。そうすれば誰なのかピンと来たようだった。

「ままぁ、セイさんとリミさん!」

「やあ、久しぶり」

「お邪魔します」

「いらっしゃい。さ、座って。お茶もジュースもあるから」

 女性の両隣を真矢と智が、正面にセイとリミが座った。セイとリミは女性との付き合いが今でも続いていた。未だ足が少し不自由な女性のために大きなものや重い買い物は代理でやってくれるのだった。近くに越してきたときは驚いたものだが、それも彼の策略だと分かると軽い力でぽかぽかと叩いた覚えがある。

「そういえば聞いたぞ。今年、瞳夜のプレイバックやるんだって?」

「うん。館川さんが来てね。私は子どもと暮らしていることを伝えたんだけど」

「瞳夜の生命保険、か」

 莫大なお金を遺すために彼は生命保険に加入した。せめて、自分の死後に家族が路頭に迷わないようにするために。

 そしてその企みは成功した。女性は莫大な生命保険金を受け取った。働くことが難しいかもしれない女性のために、様々な人に気にかけるよう声をかけて、彼は早く天に召された。

 それでも、本田が試算した余命よりは長生きした。年々虹がかかる期間が長くなったのにも関わらず、余命宣告から十年は生きた。

「ねぇ、もも」

「うん」

「ーー今でも、好き?」

 リミの目を真っ直ぐ見てももは笑って言う。答えなんて聞かなくても分かっている。やっぱすげぇな、とセイは思う。

 この二人は臆病な自分たちが言えずにいたストレートな気持ちを真っ直ぐ伝える。くっつくまでは色々とあったが、くっついてからは真っ直ぐで、浮気なんてしなかった。

 それに憧れて、でも、臆病なまま一歩を踏み出せずにいたセイとリミの背を二人はいとも容易く押した。躊躇なんてしているんじゃない、なんて言って。今、セイとリミが揃いの指輪をしているのは二人のおかげでもあった。

「わたしもパパとママ大好きだよ!」

「ぼくだってだぁい好きっ!」

 子ども二人がドーナツの上の白い粉糖を頬につけながらそう言う。両手をぐーんと伸ばしてアピールする様はかわいらしい。

「ママも大好きだよ」

 外は暑い。けれど、この冷房の効いているはずの部屋もそれに遜色ないぐらい暑かった。ギラギラとひまわりに喧嘩を売る太陽はまだ沈みそうにない。

 ーー僕も愛している。

 ふっと懐かしい彼の声が聞こえたような気がしてももは顔を上げる。ぱちりとそこにいた青年と目が合う。その姿は高校生のときの姿に近かった。エメラルドのような目がゆっくりと細められ、それと同時に頬が色付いて上がる。

 ーーももちゃん。

 その口がそう形作った。ひらひらと手を振る。そして光の粒子となってそれは消えてしまった。

「あれ?ドーナツが一個なくなっちゃった」

「ほんとだ」

 智と真矢が不思議そうに声を上げる。それを聞きながらももは思い出す、彼の口元に双子と同じように粉糖がついていたことを。ももはふふっ、と笑い出した。

「どうしたの?」

「なにか面白いことがあった?」

「うん、あのね……」

 ーーパパがきゅうりの馬に乗ってやって来たの。

 縁側にはきゅうりで模した馬とナスで模した牛がいた。これも少し不格好だがそれもご愛嬌だ。

「瞳夜、いたの?」

「うん、いたよ」

 ーーついさっき、そこに。

 示した方に視線が向く。けれど、もうそこに彼はいない。見えなくなってしまったのだ。けれど、セイはそこに向けて声をかける。

「瞳夜、ももちゃんたちのことは任せろ」

「ちゃんと守るから」

「ぼくだって守るからね!」

「私だって!」

 頼もしい声だ。ももはゆっくりと瞬きをする。

「だから安心してね」

 ふわりとカーテンが揺れた。それが彼からの返事のようだった。



水くくる/鱸


 文化というのは、広義な言葉だ。

 放課後の切ない風が普通教室を通り抜ける。気が早い運動部の掛け声、西日と、土の匂いがあった。4つの机は、島にしてある。森乃は黒板と向かい合う窓側に座り机上で書類の端を揃えた。そして書類を持ったまま机いっぱいに腕を伸ばし、顎を乗せ、楽な姿勢になる。森乃は端を揃えた紙面を見つめ、呟いた。

「活動の記録、及び実績か」

 生徒会によると、ここに記入する活動は最低でも3点ほしいとのことであった。しかし森乃たち文化研究会が、学内外で記録に残るような特定の活動をすることはない。念のため枠だけが設けられている活動の時間も、羽田が古典を眺めていたり、鰒留がそれを覗き込んでいたりする程度だった。辛うじて文化祭では羽田が単独で部誌を発行したものの、それらは開始早々羽田目当の女子生徒がすべて持っていってしまい、宣伝効果は特になかった。

 そもそもこの研究会で最も深刻な問題を抱えていたのは森乃だった。文化研究会に所属する森乃はもちろん歴史が好きだった。しかし歴史といっても、森乃の専門分野は、海難事故だった。藤壺まみれで引き揚げられたコインの写真を眺めては、人知れず笑んでいた。森乃は日本の古典もまともに読めない。

 森乃は二人がそろそろ教室に来るだろうと机から身体を起こした。依然として書類は手元にある。

 羽田も鰒留もクラスメイトと仲が良く、ホームルームが終わっても次の予鈴が鳴るまではなかなかここに来ない。森乃は二人が羨ましかった。誰かと趣味が合わずとも、気軽に話をしてみたいと感じていた。もちろん、森乃のクラスも皆仲は良く、森乃に対して親切であった。しかし森乃は、興味があるのかないのか定かではない自身の話を皆に聞かせるのは申し訳ないと感じ、適度なコミュニケーションをとれずにいた。

 遅れてやってきた二人は、上靴で廊下を悠長に鳴らしていた。話し声が響いて聞こえてくる。

「じゃあとっくの昔に検証されてたんすね」

「そうみたいだね。百年前の出土資料だけど、洪水があった頃には既に白骨化してたって」

 開けっ放しにしてあった扉から、鰒留がこちらを伺うように半歩、そして顔を覗かせた。

「あっ、森乃さん。早いっすね」

 鰒留の挨拶は三月下旬の日差しのようだった。

「鰒留さん。羽田さんも。こんにちは」

 羽田が鰒留に続き、教室に入ってくる。

「こんにちは。それと、おつかれさま。A組は今日芸術も体育もあったんでしょ」

 森乃にとっては心の温まる心遣いだった。羽田の万人に好かれるような性格は天然物で、嫌味がない。

「うん。そうなの。ありがとう」

 森乃からそれ以上の言葉は出てこなかった。二人は荷物を机の横に置き、隣合って座っていた。森乃がプリントを手渡すと、二人ともすぐに目を通した。

「来たね、生徒会の調査票」

 羽田は特に困る様子もなく微笑んだ。鰒留はその書面を見ながら、ペンケースを取り出した。組織名や所属者、そしてそのクラスをボールペンで書き込む。

「生徒会長さんは、どこにもない実績を作れって言ってたっすね」

「どこにもない実績を?」

 その手強いフレーズを、森乃は思わず繰り返した。

「企業のコピーみたいだね」

 森乃たちの通う学校は活動的な生徒が多い。校門からはみ出るほどに文化で溢れ返っていた。そんな環境にあって、他では真似できないような実績を残すのは無理難題に感じられた。

「これ、3個必要で。ひとつは最悪の場合、文化を研究しました、って書けば。ふたつ目は、羽田さんが部誌を発行しました。でいいと思うんだけど」

「そうだね。みっつ目……なにかあったかな?」

 羽田は手を口元にあてて、鰒留は腕を枕に頬杖をついて、森乃の正面に座る二人は真剣に文化研究会の活動を思い出そうとしていた。

 強めの風が吹き、カーテンが舞った。

「無くないすか?」

「無いかも」

「無いよね」

「最低でもみっつ書いた方がいいんすよね」

「たぶん。余所の部はどんな活動してたっけな」

 余所。運動部なら、試合の宣伝とかだけど。

「朝刊と夕刊を発行したり、学内外の情報を記事にして貼ったり、掲示板を運営したりしてるかも」

「それは全部広報新聞部の仕事だね」

 軽音部や合唱部はステージに立てばそれだけで集客力がある。吹奏楽部も、ステージに立てば映えた。

「体育館なら、申請すれば使えるかな」

「今からなにか催すってこと?」

「うん。他に無いからね。書けることが」

「体育館を借りるのは良いとして、なにやるんすか」

「なんだろう。なにしようか」

「羽田さん……」

 羽田はいやいや、と首を振って否定した。

「違うよ。なにも考えてないんじゃなくて、候補が多過ぎて絞りきれないっていうか」

 文化研究会が講堂の舞台でやること。研究成果の発表ぐらしいか、私は思い付かない。

「日本だったら講談、手品、落語、小唄、浪曲、義太夫でしょ、色物なら紙切り、曲独楽、音曲とか」

「ああ、なるほど。見てみたいっすね、同級生の前で南京玉すだれやる羽田さんは」

「いいよ。やろうか? 練習しなくちゃね」

 羽田は言葉を並べたが、森乃は『手品』しか聞き取れなかった。途端に不安が押し寄せる。

「あ、森乃さん。そんな不安そうな顔しなくても大丈夫っすよ。要は、事実が残ればいいんすから」

 鰒留の言葉に羽田が頷いた。

「別に、無理強いはしないし。ただ活動欄に書くだけなら一人でやっても構わないからさ」

 森乃は、たしかにそうだ、と納得した。しかし森乃は、文化研究会に所属している以上、日本の文化についてもっといろいろ知らなければならないと感じていた。そして森乃は、二人と親しくなりたかった。

「二人さえよければ、私もやるよ」

「南京玉すだれを?」

 森乃が簾を扱うことはできない。また、森乃は南京玉すだれがどのような芸なのかすらわからない。

「手品なのかな、今から準備するとしたら」

「それか、短い噺なら、落語もありじゃないかな。道具も少ないしね」

「落語はやったことないから、できないかも」

「手品はあるの?」

「ないけど」

「じゃあ、費用も少ないし、落語にしようか」

「了解っす」

 羽田と鰒留の言動の軽やかさに、森乃は驚いていた。

「森乃さん。落語ならレコードがあるから貸すね」

「ありがとう」

 森乃は何食わぬ顔でお礼を述べたあと、自宅にレコードプレーヤーがないことを思い出した。


 鰒留は眠たい目をこすりながら、自分の成すべきことを成した。演劇部の友人に、体育館で寄せらしいステージを作れないか打診していたのである。

「そういうセットとして作ればいいかな。承ったよ」

「さすが。話が早くて助かるっす」

「お安いご用です」

 演劇部が無償で協力してくれることに感謝しつつも鰒留はお礼の方法を考えていた。鰒留の友人は、同じ教室に居た演劇部の部長に声をかけた。

「手伝ってほしいから、一緒に来てもらえるかな」

「もちろん。どうしたの」

 三人で輪になった。理由もないが、極秘任務の会議を行うかのごとく輪の中心に影を落とす。

「舞台袖の地下に収納用の物置部屋があるね。今から三人でそこに行って、必要なものを探し出して揃えておく。何回でも言うから、よく聞かなくてもいい」

 演劇部の部長は一生懸命頷いていた。それはよく聞くという意思表示なのか、聞かないという意思表示なのか。鰒留は念のためメモを取り出した。

「まず、背の低いスタンドマイクがひとつ、空いていなければピンマイクをみっつ。あとはめくり台、和室用の間仕切り、緋毛氈、どこかで使ってたら赤のフェルトで代用しよう。それから、祝寿用かそれと同じ緞子判の座布団をひとつだけ。道に飾る提灯は丸型を紅白で八号から十号、あるだけ出そう。高座は座卓に滑り止めとコンパネで補強しておくことにする」

「わかった」

 部長は頷いたが、鰒留は頷けず聞き流した。

「あ、そうだ。幕の希望ってあるかな」

「定式で。歌舞伎っぽいっすけど、派手なんで」

「うん。了解」

「あとで書道部にめくり用の半紙もらいに行くね。早いうちに書いたほうがいいと思うから」

 舞台袖に向かう途中、鰒留たちはA組の前を通り抜けた。廊下からヘッドホンをした森乃が見えた。森乃は口元でなにか唱えている。その様子は、落語を練習しているようにも見えた。鰒留としては森乃が手品ではなく落語をやることに苦しさを感じていないか不安だったものの、森乃の健気な姿を見て、多少、安心する気持ちがあった。


 学内施設を利用する場合は、それを申請用紙に記入すればよかった。日付は再来週で、利用者は文化研究会。場所、体育館。用途、成果発表。時刻。多くの生徒に見てもらうのであれば、放課後か。その際には他の部活動に迷惑をかける可能性もあるが。羽田はカウンターで書類を作成し、職員室の扉をノックした。

「すみません。2年B組の羽田です」

「はい。どうしましたか」

 席を立って出てきたのは、A組の担任だった。

「書類をご受理いただきたいのですが」

 羽田は申請用紙を手渡す。

「成果発表として落語を?」

「そうですね。調査票に書けることがなくて」

「ちょっと待っててね。調査票の期限に間に合わせるなら、けっこう急ぐんでしょう。すぐ確認する」

 A組の担任は書類を持ったままデスクのマウスをカチカチと動かした。モニタを確認したあとで、本人が述べた通り、すぐに戻ってきた。

「水曜日の放課後なら使えるみたい。書類には、判子を押しておくわ」

 先生が首から提げた二つの印鑑ストラップ。二本浸透印を引き抜いて同時に押した。顧問の欄にも印鑑が押されていた。

「ありがとうございます」

「いえいえ。しかと受けとりました。公文書にはもちろんこんなことしないからね」

 手を振り、またね、と挨拶する。羽田は一礼してその場を去った。自分も噺をする準備にとりかからねばならない。南京玉すだれも含めて。


『ええ……小野小町が鎮西八郎為朝のところにやった手紙なんざどうです……、うーん……そりゃあ、珍しいなあ……だけどちょっとお待ちよ、おい。小野小町と鎮西八郎為朝じゃあ時代が違うよお前。あるわけがねえ』

 森乃は江戸落語の独特なリズムと言葉遣いに躓き噺を覚えるどころか噺家の声を聞き取ることすらできていなかった。丸暗記すれば舞台には上がれるような気もしていた森乃だったが、これでは間に合わない。

 森乃はヘッドホンを耳に押し当てた。聞こえてくるのは一昔前の、訛っていて癖のある日本語だった。日本史に造詣が深ければ……そしてその知識が少しでもあれば楽しめるはずなのだが、と苦心した。

「森乃さん?」

 ヘッドホンをしてブツブツ江戸言葉を唱える森乃に話しかけたのはクラスメイトの伊野上だった。

「なに聞いてるの?」

 伊野上に近寄られた森乃は、緊張した。

「えっと、落語」

「へえ。落語が好きなの?」

「これから、好きになる予定かな、一応」

「そうなんだ」

 森乃にとって伊野上の笑顔は眩しかった。真夏の太陽であり夜中の蛍光灯であった。

「ねえ、少しだけ邪魔をしてもいいかな」

 伊野上は邪魔をすると言い森乃の隣に座った。

「あのね。森乃さん、顔が険しかったの」

 自身の顔に言及された森乃は首を傾げた。伊野上は睫毛をはためかせ、森乃の顔を覗き込む。

「つらいの?」

「いや、つらいというか」

「うん」

「あの……普通に、覚えきれなくて」

 森乃が告げると伊野上は元から大きな目を更に見開いて驚いた。

「それ、覚えるの?」

 森乃は頷いた。どちらにしろ二週間後には行われる催しだ。嘘をつく必要はない。

「そうだったんだ。覚えるんだね。それなら、つらそうな顔をしなくてもちゃんと覚えられる方法はなにかないかな」

 伊野上は顎に手を当てて懸命に思案する。森乃はその様子を見て、伊野上に言葉を投げかけた。

「茶道部は調査票になにを書いたの?」

 伊野上は特に迷いなく答える。

「うちは部長が、茶会に引っ張りだこだから。簡単に言うと、お金持ちのお屋敷に行って、点ててる」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう」

「うん。どういたしまして。森乃さんは……もしかして調査票に書くために覚えてるの?」

「ああ、うん。そう。文化研究会って、普段けっこう自由だから。文化のことならなんでも好きなこと勉強できると勝手に思ってたんだけど。ちょっと、趣旨が違ったみたいで」

 二人の作る空気が居心地良く、森乃は自分の存在が二人にとって迷惑なのではないかと思いつつ退会できずにいた。伊野上は襟元をいじりながら言った。

「じゃあ、ひとつ方法として提案するけど……なにかを好きになるってどうかな」

「なにかを好きになる?」

「うん。森乃さんの好きなことはなに?」

 この質問は、森乃が一番恐れていた質問だ。

 歴史なら海難事故で、銃器であればマスケット。浪漫を感じるのは藤壺の写真。とても、明るくて華やかな女子生徒に対して宣言できる内容ではない。森乃が焦っていると、伊野上が助け船を出す。

「ピンと来なかったら、好きな人でも」

「好きな……」

 人。森乃の好きな人はなにを隠そう髑髏とカトラスの海賊旗でお馴染みのキャラコ・ジャックである。

「好きなこととか、人のためなら、なんでも楽しく頑張れる気がしない?」

 森乃はキャラコ・ジャックのためであれば頑張れるというのだろうか。

「森乃さんは羽田くんとか気にならないの?」

「気にならないかな」

「じゃあ鰒留くんは?」

「ううん……」

 森乃にとって二人はたしかにかげかえのない存在であったがキャラコ・ジャックには及ばない。

「森乃さん、硬派だね」

「全然。ジャックはナンパな奴だよ」

「ジャック?」

「そう、ジャック──」

「ジャックって、森乃さんの恋人?」

「いや、森乃さんというか、ボニーさんというか」

「イギリスの人?」

 間違いではない。森乃はその場を収めるために一度頷いた。伊野上は目を輝かせている。眩しい。

 教室前方のドアから、委員会を終えたであろう図書委員の女子生徒が帰って来た。森乃たちを見つけると前の席まで来て、椅子を逆向きにして座った。

「なんのお話してるの?」

「森乃さんの好きな……」

「落語の話」

「森乃さんの好きな落語の話?」

 森乃は伊野上に対して、人差し指を口に当ててみせた。伊野上は静かに頷いてくれる。

「落語の本なら、図書室にもたくさんあるよ」

「あ、そうだ、森乃さん。図書館で、文字を見ながら好きな落語を探せばいいんじゃないかな。好きな話が見つかれば、すぐ覚えちゃうかも」

 森乃が返事を渋っているうちに予鈴が鳴った。

「森乃さん、私でよければいっしょに探すよ。放課後、図書館行こう」

 優しい波にのまれ、森乃の顎は少し沈んだ。


 廊下を歩く森乃たちは、一段と目立っていた。

「羽田さんはなんでも似合うっすね」

「ん、似合ってる? それはどうもありがとう」

 三人は扇子と手拭いを巾着に入れ、それを揺らしながら悠長に歩いていた。

「ぴったりだ、三人とも」

「仕立て直すの、めちゃくちゃ早かったっす。成長期の男子はすぐ背が伸びるから慣れてるって」

 演劇部の部長は、舞台で使った着物のサイズを森乃たちの大きさにぱぱっと手直ししてしまった。簡単なことではないはずなのに。

「じゃあ今日はこのまま練習する? 本番と同じ状況に慣れておく方がいいよね」

「うん。頑張ろうね」

「森乃サン、大丈夫っす」

「みんなのおかげで……なんとかひとつ、覚えられた」

「おお。頑張ったんだ」

「仕草は、まだまだだけど」

 練習のため、森乃たちは普通教室に戻ってきた。

 ひらひらと舞うカーテンに、潜って開いた窓を閉め、ざわざわと急く放課後の、廊下に通じるドアを閉め、慣れない和服に身を包み、今日も今日とて稽古が始まる。しかし森乃たちは落研ではないのだ。


「昔のご身分の高い方々というのはですね、庶民の生活なんて、ご存じないわけですね」

 森乃は正座のまま、羽織を脱いだ。

「ですから、普段から、庶民の知りたいなあと思っているようです。よおく晴れた気持ちのいい気候、初秋のある日、お殿様は家来たちを引き連れて、目黒不動参詣へ出掛ていったようです。お殿様たちが目黒に到着なさったのは、お昼近くのことでした。すると近くの農家から、秋刀魚を焼くよい匂いがふんふん漂ってまいります……」

 森乃は二人にじっと見つめられ、目をそらす。

『いやあ。こんなにおなかが空いているときは、秋刀魚で一膳、お茶漬けをいただきたいものですねえ』

『ほう、秋刀魚……自分も一度、秋刀魚というものを食してみたいのだが』

『いえいえ、秋刀魚とは下魚でございますよ。とてもお上のお口に合うようなお魚ではないのでございます』

 台詞に集中すれば、仕草が上手くいかない。仕草に集中すれば、台詞を忘れそうになる。

「……とはいったものの、お殿様のお言いつけでは、聞くほかありません。 家来たちはなんとか秋刀魚を焼いている農家の方々に頼みこみ、焼けた秋刀魚を譲ってもらうことになったんでございます。お殿様は、彼が生まれてはじめて食べる秋刀魚の味をすっかり気にいられました。たいへんにお腹が空いていたことも相まって、その味というのは、とてもとても忘れることのできない味になりました。ところがですね……お殿様が屋敷に帰っても、食卓に秋刀魚はでてきません。秋刀魚のような下魚は、誰も出そうとしないわけでございます」

 森乃は一呼吸おく。森乃が覚えるために簡略化した噺は、順調に進んでいた。

「また別の、ある日のことでございます。お殿様は親戚のおよばれでお出掛けになりますとそこの方に『お好きなお料理は、なにか、ございませんでしょうか。なんでも構いません。どうぞ、お申し付けください』というご家老の申し出に、すかさず秋刀魚を注文したんでございます。親戚は驚いて、日本橋魚河岸から最上級の秋刀魚をとり寄せました。かような脂が多いものをお殿様に差し上げて、もし万が一お体に触っては一大事と、十分に蒸したうえ、小骨を丁寧に抜いて、だしがらの様になった秋刀魚を出しました」

 森乃はかの有名なくだりを削り、最後まで演じることを目指した。

『なに、これが秋刀魚と申すか。まちがいではないのか。たしか、もっと黒く焦げておったはずじゃが』

 殿様の台詞は少し、滑稽に。ただでさえ台詞を減らしているので、印象に残るよう速度を落とす。

「そんな脂が抜けてぱさぱさの秋刀魚が、おいしいはずないんでございますね」

 森乃は息を吸い込んだ。

『この秋刀魚はいずれよりとりよせたのじゃ』

『は。日本橋魚河岸にござります』

『それはいかん。やはり秋刀魚は、目黒にかぎる』

 噺が終わると森乃は二人の様子を窺った。

「まあ噺っていうかあらすじみたいだけど、長すぎないし、殿様系は役の切り替わりがわかりやすいし、いいと思う。森乃さんはこれで行こう」

「一回も噛まなかったっすね」

「まあ、小骨全部抜いたからね」

「あの、なにか、駄目なところとかあるかな」

 羽田と鰒留はどうだろう、と顔を見合わせた。

「ねぎまの方が他の生徒にウケるかな?」

「そういうことじゃないと思うっすよ」

「いや、もっと、こうした方がいいとか」

 鰒留が扇子を開いて森乃をあおいだ。

 眼前の突風に驚き、森乃の身体から力が抜ける。

「そうそう、力。抜いた方がいいっすよ」

「あ、はい……わかりました。」

 本番前だが、森乃は既に、思い切って正解だったと感じた。森乃は即席の高座から降りて着物を直した。

「じゃあ、交代しようか」

 鰒留が高座へあがった。森乃はめくりを翻した。筆で書かれている鰒留の文字には、圧力があった。


 思いの外、開演前から生徒は集まった。演劇部が準備する予定だった作業を演劇部ではない生徒が分担して手伝っていた。それから、お茶に、おやつに、お弁当などが用意された。

「緊張してる?」

 やたら着物の似合う羽田が寄ってきて、鰒留に話しかけた。鰒留は羽田を見上げた。

「人前で喋る機会って案外少ないっすからね」

「うん。特に落語は、高座にあがったら始めから終わりまでずっとひとりで喋るからね」

「そうなんすよねえ」

 羽田と鰒留は談笑した。鰒留はそわそわと、その場で足踏みをしていた。そうしているうちに森乃が更衣室から戻ってくる。

「おまたせしました」

「あれ、森乃さん、いつもと雰囲気違うね」

 着物の色と柄は練習の時と変わらない。なにが変わったかといえば、かけ襟と袖口に白いフリルが付け足されてたり、おさげを括って花簪を挿していたり、そのようなマイナーチェンジである。

「成人式?」

「ね。言われると思った」

 しかし、なによりも目立つのは帯留めだった。

「大蛸っすか、それ」

「大蛸っす……お守りがわり……っす」

 森乃は照れ臭くなり、自分の触覚を摘んだ。

「いいんじゃない、可愛くて」

「そうだよね。蛸すごく可愛いよね」

「そっちっすか」

 巾着の中で、スマートフォンが振動した。

「あと30分で17時だ」

「少し練習しておこうか」

「そうっすね」

 三人で向かった楽屋には、わざわざネタ帳が準備してあった。これを用意したのは演劇部だ。今日は一人一演目だが。


 文化というのは、広義な言葉だ。

 それにしても、研究は自由だ。

 森乃は普通教室の机を島にして、ひとり、紙にペンを滑らせていた。箇条書きの活動記録に、体育館での成果発表、と書き込んで、静かに笑む。

 変わらない空の下で、走り込みの声を聞いた。

「そろそろ来るかな」

 付点のリズムで、廊下と上靴はぶつかっていた。

「梟首ってやっぱり人通りの多いところが映えるんすかねえ」

「人も船も。三条河原とかね」

 森乃は二人の会話を耳にして、物騒だと感じた。

「こんにちは」

「お疲れ様っす」

「お疲れ」

「書類、書いておいたよ」

 森乃は二人に調査票を手渡した。

「助かるっす」

「ありがとう。じゃあもう行こうか」

 三人は教室の電気を消して下駄箱までを歩いた。生徒会室の前を通り、提出ボックスに書類を投函する。

 靴を脱ぎ、校門をくぐり、特別な活動が始まった。

「あんなに反響あるとは思わなかったっす」

「ね。部活抜けて来てくれた子も居たし」

「なにがよかったのかな。はなしかおかしか」

「そこはもう、噺っすよ」

「まあ、次回はいつですかって聞かれたしね」

「深草演芸ホールって電車降りたらすぐなの?」

「すぐだよ。10分くらい」

「そうなんだ。楽しみ」

「主任は桟夕亭湯葉だから、最後にあれやるかもね」

「あれ?」

「十八番の『船徳』っすね」

 森乃はその噺をすでに、知っていた。駅に着き、電光掲示板を見た。現在時刻との差は少ない。

「いい電車に乗れそうだね」

 三人で、駆け足ぎみに定期をかざした。

【参考文献】

興津要編 2002『古典落語(上)』東京: 講談社文庫.

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聖徳大学 文芸研究同好会

聖徳大学 文芸研究同好会です。 当ブログでは、同好会の活動報告や部員の何気ない呟きを発信します。