2024年度 卒業制作と皆へ

こんにちは文芸研究同好会 2024年度部長の空色です。

ブログの投稿は前回の挨拶を最後にしようと思っていたのですが、文字数おばけさんの卒業制作見てていいなぁと思ったので、最後に急遽作ってみました。ギリセーフ!


それから、ここまで読んでくださった方々、一緒に活動してくれたみんな。

改めて今までありがとうございました。

最後の定例会で言い忘れていた最後の挨拶をここでさせてください。きっと誰も気づかないだろうけれど…!(笑)


海苔むすびさん

短い間でしたが、サークルで一緒に活動してくれてありがとうございました!機転が利くところに、いつも頼りっぱなしで本当に助かりました。百合小説永遠に待ってますね♡


かなさん

卒業おめでとう!学部の方でも忙しかった中で、沢山会議や企画に参加してくれてとても助かりました。サークルでは規制かかってたけど、これからは気にすることなく不穏ネタを沢山書いていってくださいね。応援しております!


詩歌さん

短い間でしたが、会議や企画にたくさん参加してくれてありがとう。一気にサークル内の人口が減って不安な点もあるかもしれませんが、これからも楽しく活動していってくださいね!


月夜さん

大学一年の時に会ってからずっと、創作の趣味もキャラの好みも何もかもが真反対だったけれど、良き仲間でいてくれた文字数おばけさん。君の作風は名前を伏せて、どーれだ!ってしても一秒で分かるくらい甘々で、可愛くて、大好きだよ。分かり合えないからこそ、一緒にする創作の話は刺激的で、わくわくして、たまに理解できなくて、非常に楽しかった。

来来来来来世くらいには癖も分かり合えているといいね…。



と、いうことで

挨拶はこれくらいにして卒業制作の話に入りたいのですが、何を載せようか一生決まりませんでした。新しく書くにはカロリー高いし、過去作はほぼ載せられないような内容だし。そもそも卒業してからもずっと小説書いているので全然「卒業制作」感がありませんが、私が書いた一次創作の中で三番目くらいに好きな作品を、私の卒業制作としようかなと思います。

人魚に恋におちた男の子の話です。まだ恋愛未満。素直じゃない男の子同士がすれ違っているのが好きなので、書いていてすこぶる楽しかったです。陸のあるレディに会いに行きたいシルと、陸に行ってほしくない幼なじみのスピカ。その本当の訳とは。


私も月夜と同じであらゆるサイトで書いていますが、またどこかですれ違ってもこっそりと、二人だけの秘密にしましょう。それでは、またどこかで!


以下、本文です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その時、俺の初恋は小さく地味に弾けた。


海面から差し込む光がレースカーテンのように柔らかく揺らいで、目の前の金髪を照らす。昔から何かと目立つタイプの幼なじみは、それすらもスポットライトにしてしまう。こうして並んでいるだけで俺とは違う生き物みたいに見える。同じ人魚のはずなのに。


「なぁなぁ、足ってどこで貰えると思う?」

「……は?」


幼なじみのシルはなんて事ないような顔で、声でそう言って退ける。まるで世間話をするかのように。綺麗な顔がもったいないくらい。


「俺さぁ、陸に行くことにしたんだよね」

「は、いや、なんだ急に」

「いやあ、セレネちゃんに言われちゃってさ。陸に来てーって」


セレネというのは、シルが最近ご執心になっている人間のメスで。なんでも、鮮やかなヒレを持つベタのように華やかで美しいんだと。一度や二度、沖で逢っただけのメスによくそこまで熱くなれるよな、と心底呆れる。


「それで、行くことにしたのか?」

「そりゃもちろん。可愛いメスに来てって言われて、行かない理由なんて無いさ」


いや理由だらけだろ。と喉元まで出かかった。よく考えてもみろよ、俺たちは人魚で、人間とは住む環境も、寿命も、姿形も違う。なにより深海に慣れてしまった体は、数時間も海水からあがっていられないし、重力が重すぎて立つのもやっとで。それだけでも理由としては十分すぎるくらいだ。それなのに。


「……そんな理由か?」

「そ。そんな理由」


それなのに、それをただ「逢いに来て」と言われたから、という動機だけで無しと思えてしまうのか、お前は。指をピースの形にして、にこにこと笑うシルにはきっと、伝わらないだろうけれど。


「考え直せよ。そんな一時の迷いで決めていいことじゃない」

「えー、でももう決めちゃったし」

「お遊びじゃないんだぞ、魔女との契約は」

「魔女?」


しまった。教えれば絶対魔女に会いたがるだろうから言うつもりなんて無かったのに、つい口が滑った。案の定、シルはヤドカリの殻を見つけた子供みたいに口角をにんまり上げた。


「ほぉ?魔女と契約すれば足が貰えるんだ?」

「ちがう、よくあるおとぎ話だ」

「はは、教えろよ〜水くさいぞ」


水臭いのはお前もだろ。既に期待で揺れ動いている背ビレが、海藻から出る泡をパチパチと弾いている。こうなったシルは執拗いから嫌いだ。しばらくは俺について回るに違いない。昔、たまたま拾ったフォークを使っていたら目を爛々に輝かせて追いかけて来たのを思い出して脱力する。


「とにかく俺は教えないからな」


ただでさえ人間界で人魚が捕獲対象である以上、人魚が人間と関わろうとするのだって禁忌なんだ。捕まったら最後、どんな実験、研究に使われるか分かったもんじゃない。それに、人間になりたいとか、魔女の話とかしてるなんて噂流れたら学校の先生に厳しく叱られる。


結局、諦めが悪い幼なじみは何日も何日も付きまとってきた。選択授業、いつもは実技の方にばかり行くくせに、最近はよく座学に着いてきて五分も持たずに潰れている。実技、今日はシルが好きな狩りリレーだったのに。そう教えてやると、逆さまに持っていた教科書から顔を出して「ちょっと後悔してる」と悔しそうに笑った。たったそれだけだけど、やっぱり幼なじみは眩しい。


ランチだって、ミドルスクールに上がってからはよく周りの人魚からサンゴ礁に誘われていたけど、最近はほとんど俺に引っ付いてくる。俺が小エビを食べればシルも合わせて小エビを食べる。俺がカニ味噌を食べればシルもカニ味噌を食べる。だけどシルの方が狩りが上手くてちょっと悔しいから、今日はシルが苦手な海藻サラダだ。エレメンタリースクールの頃、調子に乗って海藻を大食いして、腹痛を起こしたのがトラウマらしい。乾燥ワカメを食べて胃袋が破裂する話なら聞いたことあるけど、既に原寸大の物を食べて破裂しそうになるヤツ初めて見た。


「意地悪だ」

「着いてこなくてもいいのに。教えないぞ?」

「意地悪だ!」


ヤケになって海藻を口いっぱいに頬張っては顔をシワシワに歪める姿に吹き出してしまう。


「スピカ、さては楽しんできてるな〜」

「さぁな」


本当は心当たりが無いわけでも無かったけど、素直に言うのも悔しいので絶対言ってやらない。



帰りも、出来るだけシルに絡まれないように普段は通らないような裏道を通る。


「なぁー教えろよー」

「あぁ、もう。着いてくるなってば」


帰る家が近いから当然そんな小さな抵抗も虚しく、どんな裏道を使ってもすぐにバレる。さらに何でも持ってる幼なじみは泳ぐのも早かった。今日も今日とて、あっという間に距離を詰められて、俺のより少しだけ大きなヒレで岩陰に追いやられる。


「ずるだ、こんなの」

「人魚聞き悪いなぁ、追いかけっこしたくて」

「追いかけっこなら他のヤツとしろよ」

「えーいいじゃん。まだ飽きてないでしょ」

「はぁ?なに、」


行き場をなくした手をぎゅっと絡め取られる。座学ばかりで体を動かしていないから体力が有り余ってるんだろう。尾ヒレが楽しげに岩を打っている。


「教えないって言ってるだろ。第一、海の魔女の話が本当だったとして、彼女はお前のこと人間にしないと思うよ」

「どーして?」

「彼女が一番嫌う話だから。女に会いに陸に行くだなんて」


薄暗く、光の当たらない岩の裏。稚魚の一匹も通らない。目の前の人魚がにっ、と口角を上げる。幼なじみの、初めて見る表情に背筋がゾッと冷えた。なんだ、それ。そんな顔、俺は知らない。


「ふぅん?詳しいね」

「いや……別に」

「まるで一度自分がしたみたいだけど」

「そ、んなわけないだろ」


一度目を逸らした隙にグッと距離を詰められる。相変わらず口元にはあの笑みを浮かべていて、感情が読めない。何を考えているんだこいつは。


「おい、近いって」

「……ね、もしかして妬いてる?」

「んなっ、馬鹿ちがう、俺は心配してやって」

「ふぅん。心配してくれるんだ?優しいね」


目頭に力を入れて睨んでも、緩く笑って返されるだけ。何を言ってもシルを煽ってしまう。視界の端で揺らぐ金髪が腹立たしい。


「後悔、することになっても知らないぞ」

「いいよ。俺は可愛い子を泣かせるくらいなら、ヒレの一つや二つ惜しくないからね」


心配してやったことが阿呆らしく思えるほどあっけらかんと言い切ってしまうところがシルらしくて。あぁ、このまま逃げても無駄だな、そう悟った。お前は俺が何を言っても陸に行くんだろ。


「……わかった。教えてやる」

「やった。スピカならそう言うと思った」


白々しいな、毎日ガチガチに岩陰に追い詰めておいて。


「ただし、教えたからには最後まで手を貸してもらうからな」

「手?」

「魔女に変身薬を作ってもらうには、色々と足りないものがある。昔は禁忌とされていた魔法だから危険な材料ばかりだ。それでもいいのか」

「もちろん!スピカこそ、手伝ってくれるんだ」

「……まぁ。秘密を教えるのも重大な罪だからな」

「ふぅん?そっか。ありがと」


そんなに純粋な笑顔で礼を言われると困る。俺は自分のことしか考えてないよ。手伝うのだって本当は、なんて。いい加減で気まぐれなやつだから、どこか「やめる」と言い出すのを期待していた自分がいることに、気付かないふりをした。


「まずはチョウザメのウロコだな」

「へえ、それもおとぎ話で学んだの?」

「うるさい。余計なこと言ってないでお前も海底探せよ」

「え、まさか、底に落ちてるのを探すつもり?」


他に何があるんだ。と、海底に貼りつけていた顔をあげるとシルは想像よりずっと目をまん丸にして驚いていた。


「面倒だし、パパッと巣窟に行っちゃおうよ」

「は!?馬鹿か、チョウザメの群れに勝てるわけないだろ」


チョウザメはサメじゃないとはいえ、凶暴なのには変わりない。以前にお遊び半分で群れに突っ込んで死にかけた魚の話を聞いたことがある。


「だーいじょーぶ!俺に任せろって」


それなのに、シルは自信に満ちた表情で近くに落ちていたガラスの破片で海草を引きちぎって、同じく近くに落ちていた網に器用に絡みつけた。


「じゃん。どう?シルバーくん特性チョウザメホイホイ」


どう、と言われても。いかにも褒めて欲しそうな顔をしている。


「そんな手に引っかかるかぁ?あいつら」


今のままだと海藻が絡みついた、ただの網でしかない。こんなのに引っかかるのは小さなプランクトンやカニくらいだ。


「……ん?あぁ、そうか。ここにチョウザメの餌になるプランクトンやカニを誘き寄せて罠にするわけだな」

「そ。どう?天才でしょ」

「でもウロコ取ったあとどんな目にあうか」


それでも世紀の大発明とでも言わんばかりに胸を張って、大雑把に網を手繰る幼なじみに思わず笑みが零れた。あぁ、こいつはそういう奴だよなと不意にこれまでの思い出が蘇った。初めて会った時も、エレメンタリースクールで出会った時も、俺が落ち込んだ時も。思い返せば、いつもお前はこんな顔で悪さをしていたな。おかげで証拠隠滅の腕が上がった気がする。


「ん、どうかした?」

「いや。少し昔のこと思い出してた」

「なぁに、急に。俺が陸に行くの寂しくなっちゃった?」


そう、笑って問いかけてくるシルに、同じように笑い返せなかった。


眩しい幼なじみは海面からの光までもをスポットライトにしてしまう。まるでこの海はすべて、お前を引き立たせる舞台であるかのように。陸のものは全て手に入れたような顔をして。俺はそれがずっと羨ましかった。お前みたいになりたかった。隣でフジツボみたいに大きな岩にくっついているだけの、そんな自分になりたかったわけじゃない。俺も、好きな人に好きだと笑って言える自分になりたかった。


「俺は……お前に後悔してほしくないよ。幼なじみだから」


それでもお前は行くんだろ、陸に。もうここまでくれば嫌でも分かる。シルは本気だ。後悔したとしてもいいと、そう言い切ったその真剣な目は、どこか見覚えがあった。あれは本気だ。よく分かる。分かるからこそ、素直に応援出来ない自分がいる。


「魔女は、変身術をかける前に必ずこう契約させるんだ。『もし想いが叶わなかったら、お前は心臓が破けて泡になる』ってな。変身術で変身したやつが幸せになったところを俺は見たことない」

「すごくリアリティある話だけど」

「昔読んだ本の話だ」

「ふ。そっか?」

「怖く、なったか」


やっぱり少しだけ期待した。じゃあ辞める、と言い出すのを。お前は俺と同じになって欲しくないよ。だけど眩しい幼なじみは、眩しい笑みを浮かべてあっけらかんと言い切る。


「いいや。叶えればいいってことでしょ?ならモーマンタイだね」

「……馬鹿なヤツ」


わかってた。もう今更遅いんだろ。何を言っても、俺ではきっと。


「なら、さっさとチョウザメを捕まえて、万年貝の真珠とウツボの乳歯探しに取りかかるぞ」

「わー、これまた難しそうな物ばかりだ」


いいな、お前は。どれだけ入手困難な物でも、欲しいものが手に入る運命で。俺は今にも、心臓が張り裂けて、泡になってしまいそうだ。いや……初めから、俺は泡になる運命だったのかもしれない。十五年前、初めてあいつを見た時から。



沖に棄てられて、今にも流されそうになっていたガキの俺を救ってくれたのはある人魚だった。その人魚は、俺と同じくらいの歳に見えるのに美しくて、優しくて、だけど瞬きの間に消えてしまいそうな儚さがあって。例えるなら海に音もなく沈んでいく夕日のようで。見蕩れているとその人魚は美しい顔をくしゃりと歪ませて笑いかけた。


『追いかけっこは好きか?』

あまりにも自然に話しかけてくるもんだから、つられて好きだと答えると『俺も好きだ。お揃いだなっ。俺と競走してくれよ』と嬉しそうにヒレを揺らした。そもそも誰なんだ、とか。どうやって走るんだよ、とか。聞きたいことは色々あったはずなのに、気がつけば俺はその人魚と海を走っていた。俺は砂浜で、人魚は海。


バシャバシャと波間を打つヒレも、大雑把に掻きあげた前髪も、楽しいなと笑いかけるその顔も。全部が夕陽色に輝いて、綺麗だと思った。


綺麗なそいつと、これ以上近づけないのがもどかしい。どんだけ走っても縮まらない距離感が気に入らない。もっと近くで、話したい。笑わせたい。走りたい。


『お前ヒレがあってずるいぞ』

『羨ましいだろ〜』

『……俺もお前みたいになれる?』

『もちろん!なれるよ。俺が保証する』

『そしたらずっと、俺と追いかけっこしてくれる?』

『いいよ。君が飽きるまで、いや飽きても追いかけっこしてあげる』

『えぇ、それはいいよ』


今でも思い出す。そんな、泡より軽くて脆い約束をしたこと。


……出来ない約束なんて、するなよ。馬鹿。飽きても追いかけっこ付き合ってくれるんじゃなかったのか。なんて。あいつは俺のこと覚えていないだろうけれど。


「その人魚は後悔してるのかな」

「え?」

「そのスピカが読んだおとぎ話?の人魚はさ。人間になっても想いが叶わなくて泡になったんだろ?」

「あ、あぁ。それか」

「どれだと思ったの」

「いや別に」


一瞬ドキりとした。懐かしい思い出に浸っていたら余計なことまで思い出してしまったせいだ。


「でもさぁ、それって本当に不幸だったのかね」


不幸だろ。想いが叶わなかったんだから。相手の幸せを願えるほど、綺麗な心は持ち合わせちゃいない。俺はいつも自分のことばかりだ。


「俺は思うんだよ。想った通りの幸せにはなれなかったかもしれないけどさ、でも好きな相手にもう一度会えたらなら、きっとそいつは後悔なんてしてないよ」


僅かに先を泳ぐシルの横顔を盗み見る。想像していたものよりずっと真剣で、穏やかな顔をしていたから。あの夕日の下で見た表情と重なって見えたから。思わず、その手首を掴んでいた。


「スピカ?」


俺はずっと、シルのことが羨ましくて。シルみたいになりたかった。シルみたいに綺麗で、強くて、輝いていて、そんな人魚に俺はなりたかったんだ。そうしたらずっと、お前といられると思ったから。


「……いくなよ、陸になんて」


静かな海底に、俺の詰まる息遣いと、シルの言葉を飲み込む音がやけに大きく響いた。あぁ、こんなこと口走ってしまうくらいなら。あの時足じゃなくて、声を引き換えにすればよかった。かの有名なおとぎ話みたいに。


「お前が行ったら、俺が、不幸になる」


だけど、十五年間の想いは一度溢れ出したらもう止まらなくて。


行かないで欲しい。お前が行ってしまったら俺はなんのためにここまで来たのか。お前は「後悔なんてしない」なんて言うけど、また一人ぼっち残されて、誰にも気づかれず泡になってしまうなんてそんなの嫌だ。俺は、俺は……。


「じゃあやーめた」

「え?」


こんなにも静かな海じゃ、聞き間違いをする方が難しい。だからきっと、聞き間違いじゃない。なら、俺の耳が病気になったのか。


「行くの、やめる」

「は?急になんで」

「なんでって、スピカが行くなっておねだりしてきたんだろ〜」

「いや、おねだりはしてないけど」

「俺が陸に行ったらスピカが不幸になるんだろ?」

「え?まぁ…そうだけど」

「俺はスピカが不幸になるのが一番困るからね」


どうやら俺の耳が壊れたわけでもなさそうで。相変わらずシルはへらへらと笑いながら「ということで!」と持っていた網をその辺に放り投げた。岩間に隠れていたプランクトンが餌を求めて群れを作って網の海藻に飲まれていく。シルの作戦はきっと上手くいっただろう。


「いやでもセレネちゃんはどうすんだよ」

「お前は俺に行って欲しいのか、行って欲しくないのかどっちなのさぁ」

「それは、ほしく、ない……けど」

「おー、素直。んじゃあ行かない。スピカの方が大事だから、それだけだよ」


いや本当にそれでいいのか、本気で陸に行きたかったんじゃないのか。というか、その位の覚悟で振り回すな。色々考えてしまった時間を返せ。言いたいことは山ほどあるけれど。


「馬鹿。お前なんて魔女の餌にでもなってしまえばいいのに」

「えぇっ、なんで怒ってんの」


ほんの少しだけ、安心した。

いい加減な幼なじみにそう言ってやってもいいと思えた。








「――それに『飽きてもずっと』って約束したから、ね」

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